2012/02/28

「コミュニティーカフェ&バー」で同人誌を売るということ

来たる3月25日(日曜日)、函館で行われる「コスカフェ」なるイベントの中で、同人誌の委託販売が行われ、しかもその委託販売では18禁・BLや二次創作など、権利的にグレーなモノも扱われそうになる、という騒ぎがあった。
 「コスカフェ」とは、函館駅前・大門地区にあるコミュニティカフェ&バー「ever green」を会場として行われるイベントである。同カフェ&バーは他にも合コンやスポーツ観戦など、さまざまなイベントを催しているが、前回行われた「コスカフェ」の内容とは、キャラクターなどのコスプレをしたコスプレイヤーが店員となって接客をするといった内容のものであったようだ(残念ながら私は神奈川県民なので、真偽の程を確かめる術はない)。
 そして今回は、そのカフェ&バーで「コスカフェ」だけではなく、同人誌即売会も行おうという企画がなされた。

 まずこの「コスカフェ」、及びそれと同時開催の同人誌即売会には、同人誌についての知識が薄い一般市民が来場する可能性が極めて高い。
 「コスカフェ」と同人誌即売会が行われる「ever green」は「コミュニティカフェ&バー」をうたっており、不特定多数の来場者がいることを前提とするだけでなく、またその名称から察するに、そのカフェのメインコミュニティは、その地域、もしくはその近隣に住む不特定多数ということが推測される。ゆえに、いわゆる「オタク」向けのイベントではなく、一般に広く解放されたイベントであることが想像できる。
 またこの「コスカフェ」が行われるのは、まだ今回で2回目である。前例は1回しかなく、その前例において同人誌即売会は行われていない。一般市民は、今回から「コスカフェ」と同時開催されることとなった「同人誌即売会」なるものの実体をよくわからないままに、「コスカフェ」及び同人誌即売会へと来場する可能性が高い。
 加えて、その「コスカフェ」唯一の前例の時、主催者は北海道新聞やNHKなどマスコミの取材を受け入れ、函館新聞にはコスプレした店員の写真が入った記事が掲載された。これらマスコミの報道により、「コスカフェ」の一般市民への認知度は上昇したと考えられ、興味を持った人たちが「コスカフェ」開催2回目である今回「コスカフェ」へと来場し、同時開催の同人誌即売会において18禁・BL・二次創作の同人誌を目にする可能性は大いにありうる。

 言うまでもなく、二次創作の同人誌は本来、著作権法に違反する存在である。だが大多数の出版社・作家が、同人誌における二次創作を事実上「黙認」している。中には一切の同人活動禁止を明文化しているところもあるが、アニメーション製作会社「サンライズ」制作のアニメ「ガンダムシリーズ」や「タイガー&バニー」などのように、会社側が同人活動を禁止していながら同人活動が活発なものもある。要するに二次創作の同人誌の存在は、限りなく「グレー」なのだ。
 そこで、だ。もし一般市民が二次創作の同人誌を目にしたとき、どのような判断をするだろうか。それを「違法なもの」と認識し、警察に通報する来場者がいないとは言い切れない。また、もし18禁の同人誌が、公然猥褻に該当するとして警察に届けられた場合、前述の通り会場は不特定多数の目に触れる「公衆」であるため、猥褻物陳列罪と認定され、罰せられる可能性が十分にある。そうなればこれは主催者と店側、同人誌の制作・販売者だけでなく、同人活動に携わる全ての人間が被害を被る可能性がある。「同人誌=いかがわしいもの・違法なもの」と、その場に居合わせた不特定多数の一般市民が認識しかねないのだから。
 まして先述の通り、前回「コスカフェ」が行われた際には、北海道新聞社やNHK、函館新聞など、いくつかのマスコミが取材に訪れている。今回もまた同じようにマスコミの取材を受ければ、すなわち「グレーなもの」や猥褻物と解釈されかねないものが晒される「公衆」とは、一気に北海道全土、また全国レベルに範囲が広がる可能性が大いにあるのだ。

 上記の話に納得できないという方は、駅前のスターバックスやドトールコーヒーのショップで同人誌即売会が開かれているさまを想像してみていただきたい。何も知らない一般市民が目を留めないという保証はどこにもないだろう。ましてや18禁やBLの同人誌が、幼稚園児が手に取りかねない場所に置かれることになるとなれば、ことの重大さはおわかりいただけると思う。そしてそれによって生じた結果が、結果的に同人活動をしている全ての人に影響を与えかねないということも。

 何度でも言おう。二次創作の同人誌は本来、その存在そのものがグレーである。公衆の面前に触れてはならず、いつ違法だと言われてもおかしくないのだ。二次創作の同人活動をするにあたっては、その作品は丁重に、慎重に扱わなくてはならない。もちろん一般の視線に触れないよう細心の注意を払って、同じ趣味を持つ特定の仲間内でやりとりすべきものなのだ。
 そういったものが、「公衆」の目の前でおおっぴらに公然と売られる、ということは、もはや同人業界の自殺行為のようにしか、私には見えないのである。
 聞けば函館では昔、同人誌即売会やコスプレイベントなどの際に会場の貸主側とトラブルになる例が相次ぎ、函館における同人誌即売会・コスプレイベントの評判は悪いという。そういった土地柄からして、「コスカフェ」のようなイベントを開く際には、通常のそれよりも配慮をすべきであろう。今回この騒動については、その配慮が足りないと言われても仕方がないと私は思う。

 あまりにも大きくなりすぎた同人誌の「市場」は、その崩壊と隣り合わせになっていることを忘れてはならない。



追記・訂正(2012/02/28 20:46)


内容に一部誤認があったと思われる部分を修正いたしました。